東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1242号 判決
(1) およそ、占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因たる事実によって客観的に定められるべきものであるから、控訴人が前叙のごとく岩下から「店舗部分」及び「庇部分」の所有権を譲り受けることを内容とする売買契約に基づいてその引渡しを受けた以上、控訴人のこれら建物部分の占有は、所有の意思をもってする自主占有であるというべきであり、前叙認定のごとく岩下がこれら建物部分の所有権を有していなかったことにより、控訴人が該売買契約によってこれら建物部分の所有権を取得し得なかったとはいえ、かかる事情は、右認定の妨げとなり得るものではない。そして、誤信に基づくとはいえ、控訴人が文治郎との話合いにより家賃の名目で敷地の地代を支払い、登記簿或いは家屋課税台帳にもこれら建物部分が控訴人の所有名義に登載されており、また、控訴人においてこれら建物部分の公租公課を納入している事実に思いを致せば、控訴人のこれら建物部分の占有が所有の意思をもってする自主占有であるとの認定を一層首肯せしめるものというべきである。
(2) また、控訴人がこれら建物部分の占有を取得し又は保持するについて、暴行、強迫等違法な強暴行為を用いた旨の特段の主張、立証のない本件にあっては、右の占有は、平穏且つ公然に行なわれたものであるといわざるを得ない。
(3) さらに、前叙認定のごとき事実関係の下にあっては、岩下が「店舗部分」の上に建てた二階や控訴人が増改築したその余の建物部分が、真実、正当な権原によって原家屋に附属させられて法律上控訴人の所有に帰属するものであるかどうかの点に論及するまでもなく、少なくとも、控訴人において、その占有の始めこれら建物部分が自己の所有であると信じていたことは確かであり、また、かく信じたことに過失がなかったことも明らかである。
されば、控訴人は、遅くとも昭和三五年一二月末日から起算して一〇年を経過した昭和四五年一月一日、時効により、本件家屋の附属建物たる「店舗部分」及び「庇部分」の所有権を取得したものというべきである。しかも、これら建物部分は、前叙認定のごとき増改築後の形状、構造及びその経済的効用並びに本件家屋そのものの主たる部分の減失等からみて、現在においては、区分所有権の対象たるべき一個独立の建物であると認めるのが相当である。しかし、登記簿上は、前叙認定のごとく、「店舗部分」の二階が控訴人所有名義の別紙物件目録記載(一)の居宅、一階が被控訴人所有名義の同目録記載(二)の居宅の附属建物たる(1)の店舗、「庇部分」が同居宅の附属建物たる(2)の庇と分かれて登載されているのである。
(渡辺 柳沢 浅香)